医療知識の情報源として、日本内科学会が長年行ってきた症例報告に着目して診療支援システムを作成しました。これはわが国独自の医療情報で、5万例以上が蓄積されています。制作にさいし、ベテラン医師が報告の文脈を丁寧に抽出し、続いて高品質の検索エンジンを作成しています。このシステムは、今後の医学・医療AI開発の基盤になるもので、地域医療で診断困難な症例に遭遇した際の病名の可能性の整理に役立ちます。

技術内容

現在のAIは医学論文の複雑な文脈を理解し、臨床症状から疾患の原因を推測することはできない。この課題に挑戦するために、我々は日本内科学会地方会の症例報告に注目した。これは1946年以来の日本独自の医学資料であるとともに現実の医療を反映することから、医学知識データベースを作成する上で格好の情報である。我々はまず症例報告の抄録から症例の論理を可視化し、検索支援するために構造化を行った(Jichi Case Map)。次に、構造化されたデータベースをもとに、特定の症状や所見の組み合わせから類似する疾患を検索するためのシステムを構築した。これにより症状や所見を説明し、鑑別すべき疾患及び病態を提示することが可能となった。
 構造化された2万4千例の症例データベースは約8千の内科疾患を含み、1.7万の病態、6万の症状・所見から構成される。例えば間質性肺炎と心不全で検索すると、強皮症、SLE、サルコイドーシス、好酸球性多発血管炎症候群性肉芽腫症、関節リウマチとともに抗アンドロゲン薬であるビカルタミドの副作用症例も提示される。この診断支援システムは、臨床現場における診療支援や教育ツールだけでなく、今後、医学情報のAI化を進めるための基盤となる。

審査委員講評

学会で発表された症例報告の知識を因果的に構造化し、キーワードから鑑別疾患のリストが提示されるシステムを開発し、学会内で無償利用する本活動は、今後期待されるオープンイノベーションの事例としても重要な取り組みである。