Ghostgram株式会社 EVISION/明治大学 総合数理学部/東京大学 先端科学技術研究センター

本技術は、日本の伝統芸能である「能」に、VR技術および映像技術を組み合わせた新しい芸能を構成するためのものである。具体的には、John Pepper が確立した舞台装置である「ペッパーズゴースト (Pepper's Ghost)」を応用したもので、能舞台上に対角線をなすように透明フィルムを設置し、フィルム越しに見える舞台奥側と、観客からは直接は見えない舞台横側の様子の鏡像とが重ねあわされて観客席からは見えるようにしている。

実体の鏡像を用いているため、プロジェクタによる空中映像投影とは異なり強い立体感が得られる。加えて、コンピュータ制御の照明によってどちらの像が見えるかを制御し、観客からはいまどちらの側の能楽師を見ているのか、区別ができない舞台を構築した。また能楽師の身体を遠赤外線カメラで撮影し、その身体の動きを反映したCG映像を舞台横側に設置したスクリーンに投影することで、能楽師と映像との重ね合わせにおいて奥行きを一致させることができ、舞台上のスクリーン前で俳優が演技する従来手法に比べより整合性のある映像投影を可能とし、映像と実像との境目を曖昧にした。

今回の演目である『攻殻機動隊』のテーマの一つである、記憶や知覚の不確かさ・曖昧さを、やはり「夢幻」を要とする能の伝統に重ね、舞台上の人物の誰が確かな存在なのか分からない、虚実の境目を曖昧にした舞台を実現した。我々はこれまで能舞台に立体映像を投影する『3D能』を手掛けてきたが、本技術により舞台上に情報を追加するのではなく、舞台上から情報を削減する手法を確立した。