特定速度で移動している人だけに伝達可能な二次元情報提示システム:Bilateral Motion Display
東京大学 情報基盤センター 石川・早川・黄・末石・宮下研究室
採択技術名 |
特定速度で移動している人だけに伝達可能な二次元情報提示システム:Bilateral Motion Display |
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採択者名 |
東京大学 情報基盤センター 石川・早川・黄・末石・宮下研究室 |
採択年 |
2020年 |
特別賞 |
スポンサー賞を受賞 |
※掲載している情報は、受賞当時の情報のため、現在は異なる場合があります。
概要
ユーザの視線の動きに応じて選択的に情報を提示する、速度依存型のディスプレイを提案します。このシステムでは、高速プロジェクタから1ミリ秒ごとに一連のパターンが投影されます。これらのパターンは、最初はユーザに情報が伝わらないように設計されています。しかし、一定の速度で移動しているユーザから見ると、投影されたパターンは、移動によって観察者の視野内の相対的な位置がずれて見えます。そのため、実質的に二次元画像として知覚されるように統合されます。これは、光源が残像として一定時間視界に残るために起きます。逆方向の移動に限らず、同じ方向で異なる速さで動くユーザに対し、それぞれ異なる画像を知覚させることもできます。
詳細
Bilateral Motion Displayでは、高速プロジェクターから1ミリ秒ごとに画像パターンが映し出されます。一見すると、表示されたパターンは何が描かれているのか、よくわかりません。しかし、ある方向や速度に動いているユーザから見ると、二次元的な意味のある画像として認識できます。これは、移動に伴ってパターンが一定時間残像として残り、重ね合わさって認識されるためです。ある速度で特定の画像が見えるように、1ミリ秒ごとに出す映像を切り替えています。
ユーザの視線の動きや、移動する早さ、方向に応じて見える画像が異なります。離れていても、多くの人が同時に見ることができます。特定の速度より早すぎたり遅すぎたりする場合や、方向が違う場合は、目的の画像が認識されません。このシステムひとつで異なる速度や方向に移動するユーザに対し、それぞれに情報を選択的に提示することができます。
技術的なポイント
従来提案されていた複数のユーザに対して異なる内容を提示するディスプレイの多くは、各ユーザの位置に応じた特定の角度ごとに画像を提供するものでした。そのため複数のユーザに同時に適切なコンテンツを選択的に提供することは難しいものでした。また、このようなシステムの多くは、レンチキュラーなどの特殊な装置を必要とするため、実用化は困難でした。この問題に対し、今回提案するシステムでは、複数のユーザの視線の動きに応じて、異なる二次元画像を同時に観察することが可能となります。情報が特定のユーザに対してのみ 選択的に提示できるため、情報の発信者が意図したユーザにのみ、必要な情報を提供することが可能となりました。
本システムの応用
スクリーン上のパターンは、投影された観察者の動きに応じて異なる画像として知覚されるため、娯楽や広告だけでなく、より社会的な用途へ応用できます。
本システムは、車へのスピード違反通知や坂道における渋滞防止の加速指示などを、一つのシステムで同時に行いたいときに効果を発揮します。例えば、下図のように交通標識として、ドライバーに特定の指示や情報を提供することができます。走行速度が早すぎるドライバーには、スピードを緩めて適切な速度で走るように呼びかけることができます。交通標識の進化版といったところかもしれません。他にも、走っている人と歩いている人にそれぞれ別の情報提示を行う広告や誘導などに応用可能です。
遠隔・非接触で情報を伝えられるため、移動方向が異なる人達に対し、選択的なCOVID-19によるマスク着用の呼びかけや、行列での誘導、移動中に人との距離を保つ様に促すことができます。また、危険な駆け込み乗車や走ってはいけない場面などでユーザの移動速度に応じた注意喚起が可能なため、マナーの向上にも利用できます。このほかにもエンターテイメントやスポーツへの利用が期待されます。
原理
Bilateral Motion Displayは、ユーザの移動速度に依存した映像の選択的知覚を、高速で投影されるパターンを埋め込むことで実現しました。このようなパターンを生成するために、ユーザが横方向に移動しているときの残像の方向依存性に着目しました。その結果、入力画像源の45度方向の画像成分を適切に抽出することで、ユーザが横方向に移動した際に、残像が重ね合わさって移動速度に応じた異なる画像が得られることを示しました。
このとき、投影される映像には、視線の移動方向に垂直な成分とそれに平行な成分の両方が含まれているため、特定の方向と速度で移動した場合にのみ、元の画像が合成されます。また、1フレームごとに画像成分を高密度に投影することで、高速な移動速度にも対応できます。画像を認識するために必要な速度を任意に制御することで、最も認識しやすい状況に基づいて適切なキャリブレーションを行うことができます。
この原理により、特定の速度でのユーザに対して選択的に,目的の情報を認識させることが可能となりました。
参考文献
- Haruka Ikeda, Tomohiko Hayakawa, and Masatoshi Ishikawa: Bilateral Motion Display: Strategy to Provide Multiple Visual Perception Using Afterimage Effects for Specific Motion, The 25th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST2019) (Parramatta, NSW, Australia, 2019.11.12-15), Proceedings, Article No. 17 [doi:10.1145/3359996.3364241].
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審査講評
観測者の移動速度・移動方向に応じて別々に結像される残像効果を使い、対向する観測者に別々のサインを同時に提示可能できるシステムで、その高い技術力に加えて遠隔・非接触で情報が伝えられることから、各種エンターテインメントへの適用が期待される。
(雨宮 智浩 委員/東京大学大学院 情報理工学系研究科附属 情報理工学教育研究センター 准教授)
嘗て、デジタルサイネージという次世代のシステムが話題になり、わたしの大学でも産学連携の一環で鉄道会社にご協力させて頂いた経緯があります。その後、急激に普及しましたが、それらはいずれも、定置設置型の静止画や動画表示のディスプレイです。本研究は、見る側が移動していることを前提に考案され、今後の進展が期待されます。
(川村 順一 氏/文京学院大学 客員教授、株式会社 横浜コンサルティングファーム 顧問)