「研究者に研究発表の場を。人々に未来を体験する場を」
Innovative Technologies 2023 採択技術発表!
優れたコンテンツ技術の新しいタネを見つけ、その中からより先進的な技術を選び、「新しい未来」を先取り体験いただく Innovative Technologiesは、社会にイノベーションを起こすことを目的としています。今年で12回目となる「Innovative Technologies 2023」は審査委員会における審議を経て、優れたコンテンツ技術を7件採択いたしました。
それぞれの技術について紹介いたします。審査委員の講評も合わせて、ぜひご覧ください!
<Innovative Technologies 2023 採択技術 紹介(順不同)>
【1】新生児体験システム CryingBaby
東海大学 情報理工学部 情報メディア学科 小坂研究室
CryingBabyは、「ミルク、おむつ交換、だっこ」などのケアを求めて実際の新生児と同様の時間軸で泣き出す。本物のミルクを飲み、尿として排出する。本物のおむつを用いたおむつ交換も可能である。吸引したミルクに着色することで尿色を自在に変化でき、たとえば血尿といった表現も可能である。
CryingBabyには、電源ボタンは存在しない。つまり、深夜に「うるさい」といった理由で電源を切ることはできず、実際の新生児と同じように「あやす」まで泣き止むことはない。
このようにして、CryingBabyは体験者に高い育児ストレスを与えるロボットである。
【講評】
飛行機のパイロットは、フライトシミュレーターで十分なトレーニングを積んだ後に空を飛ぶ。新生児の育児もそれに匹敵する難しさだが、若い夫婦はいきなり現場に立たされる。本作のような「人間に負荷をかける装置」は、これから重要な領域になるだろう。
土佐信道 委員(明和電機 代表取締役社長)
【2】Mechanical Brain Hacking: 身体編集VRサイバネティックスシミュレータ
東京大学 稲見・門内研究室
本プロジェクトにおいて、体験者は身体が壊れたロボットアバタを装用し、アバタ脳内の身体制御回路を自ら編集することで、身体システムを修復することを試みる。後頭部への触覚フィードバックと電気刺激による通電感覚がロボットとしての没入感を増幅させる。身体を自分自身でリアルタイムに編集する”Editable Body”のコンセプトの下で、体験者は自らが望む身体を探索することができる。これにより、個々人に合わせた人間拡張技術の適用を実現する。
【講評】
まず、動画を見ただけで、やってみたいと思える。自身の脳をハックする体験というのが新鮮。教育方向としてもエンタメ方向としても。脳や体のメカニズムを実態に即した形でこの形で体験できれば、筋トレや脳トレなどにおけるより効率的なイメージトレーニングに使えそうです。
柳澤大輔 委員(面白法人カヤック 代表取締役CEO)
【3】空間再現ディスプレイ ELF-SR2の開発
ソニー株式会社
ソニー独自の視線認識技術によって、視聴者の目の位置を検出し、左右の目に最適な映像をリアルタイムで生成。裸眼でクリアで色鮮やかな立体視体験を実現します。ディスプレイの大型化により原寸大で表示できる価値が高まり、これまで以上に実在感のある映像体験を提供します。
【講評】
ディスプレイを前提とした表現に付きまとう様々な制約を取り払い、拡張できる可能性を秘めたデバイス。表現媒体としても、制作現場のストレスを減らす効率化ツールとしても画期的で、いちクリエイターとして非常に好奇心をそそられた。
市原えつこ 委員(メディアアーティスト)
【4】ジザイ・フェイス
芝浦工業大学 / 東京大学 / バイバイワールド株式会社
「ジザイ・フェイス」は自由自在に遊べる人工身体部位である。無線カメラが仕込まれた「ジザイ・アイ」は、瞼がパチパチ開閉する。自分の眼を増やせるデバイスだ。無線スピーカーが内蔵された「ジザイ・マウス」も唇開閉機能を搭載。自分の口の代わりにペチャクチャ喋ってくれる。自分の身体に装着したら、沢山の顔パーツを持った「バケモノ」になれる。家具や家電にくっつければ、物を生き物のようにアレンジできる。誰もが持つ顔パーツというメタファーを体現したこの装置を通して、老若男女誰でも自由自在な「身体」を獲得できる。
【講評】
福笑いはなぜ楽しいのか? 我々の視覚認知が、目、鼻、口の形や配置にとくに鋭敏だからだろう。それぞれのパーツは、カメラは目、スピーカーは口、マイクは目の身体拡張としてすでにバラバラになっていた! 楽しく、可能性と同時に問いかけにもなっている。
遠藤諭 委員長(株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員/MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー/ASCII STARTUPエグゼクティブ・アドバイザー)
【5】Nukabot
Ferment Media Research / 早稲田大学
Nukabot(ヌカボット)は、人間がぬか床内の発酵微生物と日常的にコミュニケーションを行い、よりよいケアの関係性が生まれることを支援するための道具としてデザインされています。内蔵されたセンサーによって発酵状態を検知し、音声による質問に答えたり、人にぬかのかき混ぜを催促したりします。音声発話にはGPT3のプロンプトエンジニアリングを用いており、声色がぬか床の発酵状態に合わせて変化したり、人間が使った単語を覚えたりしながら、システムそのものも周囲とのインタラクションに応じて「発酵」していきます。
【講評】
「Nukabot」は、人間とコミュニケーションするの中で、ぬかのかき混ぜを催促したり、発酵微生物との関わりを促します。使っていくうちに、微生物の挙動が感覚的につかめたり、愛着を抱くようになるなど、見えないものとの心理的なつながりが生み出されます。
渡邊淳司 委員(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 上席特別研究員)
【6】自在肢
東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学研究室 / 東京大学 生産技術研究所 Prototyping & Design Laboratory / 株式会社 スプラインデザインハブ
自在肢は、装着型のロボットアームシステムである。6つの着脱部を持つウェアラブルベースユニットと着脱可能な1-4本のロボットアームで構成され、装着することで即座に腕を増やした身体を体験することが可能である。
本作品は、身体を自在に編集できるようになったデジタルサイボーグ(装着型ロボット技術、情報技術などを用いた手術不要のサイボーグ)が受け入れられた未来の社会を探究するために制作された。アームの自由な着脱により、身体の形の編集、装着者間での腕の交換など、未来の社会的インタラクションを可能にした。
【講評】
「デジタルサイボーグ」という新たな人間とロボットの関係性を問うテーマを内包するシステムデザインは、独自性・新規性が高く、クリエイターによる新たな創作活動の可能性や、市場の創出に繋がる期待を感じさせる技術である。
渡邊佳奈子 委員(経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課長)
【7】Transtiff: 硬軟変化関節を備えた棒状触覚インタフェース
青山学院大学 伊藤研究室 / オムロン サイニックエックス株式会社
Transtiffは棒状の道具全般に適用可能な硬軟変化インタフェースである。通常、手で扱う道具の硬さは変化しないが、その一部に硬さの変わる関節を挿入すると手に伝わる触覚を制御できる。本デバイスでは棒の中継部に人工筋肉を模した硬軟変化関節を挿入することで、関節部の硬軟制御による触覚変化を実現した。応用例として、棒先端の関節が動的に硬軟変化するペン型デバイスと筆記アプリを開発した。棒先端が硬いときは硬筆に似た感覚、軟らかいときは毛筆に似た感覚が提示でき、単一のデバイスで複数の書き味を表現できる。
【講評】
人とタブレットコンピュータとの間を繋ぐスタイラス。この一本の棒が突然柔らかくなったら、画面の中の世界と僕らとの関係性はどう変わるだろう。シンプルな装置から生まれる不思議な感覚を楽しんでほしい。
南澤孝太 委員(慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科(KMD) 教授)
以上の7件が採択されました!
体験してこそ、その素晴らしさや驚きが感じられるテクノロジーもあります。
こちらの技術は11月15日(水)~17日(金)に、幕張メッセで開催されるInter BEEの特別企画「INTER BEE IGNITION×DEXPO」にて体験できます。ぜひご来場ください!